好きって言えない  『好きで10のお題』より
 


四月に入って一学期が始まるのと同時、
どうかしたらば入学式の日と重なる勢いで。
週末はずっとずっとの毎週毎週、
それこそ七月の期末試験の始まろう辺りまで、
負けない限りは試合が続くのが、
高校アメフト春季関東選手権大会。

 “…そんな名前でしたっけ?”

堅いことは言わない。
(こらこら)
恒例の高校アメフトの春の陣が、今年も華々しく幕を開け。
週末の試合はもとより、
それを目指してのスキルアップ&調整という日々の練習も積み上げて。
毎日がアメフト三昧という日々が続くのが、
キツイけど微妙に懐かしいような、
それでいて…そのところどこで、

 「だぁあっ、そっちじゃねって。ランのコースを覚えてこんかっ!
  そこも えーじゃねえ、えーじゃ!」
 「あ、えと。最初から全部は無理だろから、まずは半分から、ね?」
 「セ〜ナ、なに甘いこと言ってんだっ。」
 「だって、あのその…。」
 「そこ、二年同士で揉めない。」

不慣れな一年生へと指導する立場になったのが、新鮮でしょうがないやら。
関東一のキッカーや全国一だろ重量ラインマン、
ずば抜けた判断力でサインなしでパスを受けられる緻密なレシーバー、
それからそれから、世界レベルじゃなかろうかという頭脳戦の名手…という。
とんでもない勢いで進撃してった去年度のチームの立役者、
頼もしい先輩たちが抜けた穴はあまりに大きいけれど。
そんなの言い訳に出来ないし、するつもりもない2年目は、
今のところはすこぶる順調で。
寝ても覚めてもアメフト三昧。
望むところの日々なのが、
嬉しくって嬉しくってたまらない。

 だって、
 やって来たのはそればっかじゃなかったし。/////////

アメリカンフットボールは、バスケやサッカーみたいに時間制のスポーツで、
ルール上の規定は“4クォーター制”の1時間となってるけれど。
攻撃がラインとの鬩ぎ合いなどなどで止められると、
そのたびに陣形を構え直したり、
どれだけ進んだのかを計測したりするのが挟まるものだから、
実質は2時間くらい優にかかるハードな代物。
それに、必ずしも…芝生やギャラリースタンドが付いているような、
本格的なスタジアムではなくともいいが、
それでも、それなりの広さとゴールポールが要るので、
そんな条件の揃ったフィールドを確保するのは大変なのか、
GWなどが挟まっても、
だからと言って3日置き4日置きなんてなスケジュールが割り込むことはない。
そうして進んだトーナメントは、
出来るだけ同等な環境下でどのチームも連戦をこなさねば不公平との観点からか、
日程が進んで勝ち残ったチームが減ってゆくにつれ、
好カードだからと観に来る人が増えるのもあってのこと、
準々決勝間近までへと勝ち残ると、
設備の整ったスタジアムで2試合3試合を1度に消化ということにもなる。

  ……ということは

観客は各自ばらばらにやって来るが、
参加選手の方は装備や荷物も多いし、何より混乱を避けてのこと、
選手一同、まとめてバスでという会場入りとなるもので。
入り口を分けられてあっても、制限ぎりぎりのところまで張り付いて。
お目当ての選手を一目見たいというファンたちが、
デジカメやケータイを手に手に待ち構える中。
横っ腹に学校名なり校章なりを記されたバスが着くたびに、
ワーとかキャーとかいう歓声が上がる。
そんな扱い、今まではインカレアメフトまでだったのに、
この数年の高校アメフトも盛り上がって来たねぇとは、
担当のスポーツ記者さんたちの嬉しそうなお言いよう。
特に、

 「お…。」

一際大きな歓声が立って、
なかなかにご立派なバスが到着すると、
無駄話もそこそこに彼らもそちらへと足を運ぶ。
ブームの前からの伝統校、
王城高校ホワイトナイツの入来で。
昨年春までは…芸能人アイドルがいたことでか、
不本意ながら“異色の”という話題まで独占していたチームだったが、
秋以降は元通り、
重厚な実力と水も洩らさぬ鉄壁の守備を誇る、
いやさ、攻撃にまで飛び道具を備えた完璧無敵のチームへと昇華して。
トーナメントこそ、全国統一を果たしたダークホースに敗れたものの、
そのおりの魂 引き継いだ面子が今年も健在。
殊に、高校最強の新キャプテンの、停滞を知らぬ努力と邁進は、
その屈辱を晴らすに十分な…などなどと、あちこちの記事にも掲げられていて。


  ……で、その屈辱を下さったお相手さんはというと、


  “ふあ〜〜〜。///////”


バスから降り立つ面々の、
どれもが頼もしくも名の知れた名手ばかりという王城の陣容の中。
一際大きな歓声と、カメラのシャッター音とが降りそそぐ、
ラインとレシーバーの二人のエース。
どちらも上背のある偉丈夫なので、
取り囲む少女たちやら記者一同より、頭ひとつは飛び出していて。
それでのこと、遠くからでも見つけやすいのは大助かりだけれども、

 「そっか、今日は王城、ここで午前のゲームだったか。」
 「うん。」

雷門くんが掛けたお声へも気もそぞろ。
お互いがシード校だった関係で、直接対決は恐らくは決勝で。
それは前以て判っていたけれど、
こんな風に同じ会場での試合になったのは、
今大会では今日が初めてだったので。

 “…変かな? 変、だよね。///////”

早朝の走り込みなんかで、時々はお顔を合わせてもいるし、
GWの最中にも2回ほど、
買い出しをかねてのものじゃああったがQ街で逢ってもいるのにね。
何日か振り、こ〜んな遠くにその姿を見たってだけで、
何だかドキドキするのって、おかしいよね。
メールだってやり取りしてる、
先週の試合で、フィールド走り抜けた後、
勢い余ってベンチに飛び込んじゃって。
大した怪我はしなかったけれど、
心配してだろ、写メを送りなさいとも言われたもんだから。
じゃあ、進さんのお顔も送って下さいとねだったら、
何でか桜庭さんのケータイ経由で送られて来たのも記憶に新しいことなのに。

 『…何やってんだ、お前ら。』

ああそうだった、モン太くんに笑われたのまで思い出し、
ますますお顔が赤くなるセナくんで。

 “でも…不思議だなぁ。////////”

フィールドに立ってる進さんへは、こぉんなドキドキは全然感じない。
立ち塞がる姿を進路の上へ見ても、
何としてでもぶち抜いてやるんだって闘志しか沸かない。
凄い人だって重々判っていての、
だからこその、
躱すぞ、追い抜くぞ、置き去りにするんだ…って気持ちしか沸かない。
桜庭さんと組んでの“サジタリウス”の陣で突進して来るの見ると、
何としてでも止めてやるって意欲が、カカッと総身を燃やすほど。


  それって…
  進さんよりもアメフトの方が大事ってことなのかなぁ?



あれれ? おやや?と、脳内世界で何にかつまずいたらしくての、
小首を傾げ始めた韋駄天ランニングバッカーさんが、

 「………。/////////」
 「セナ、気が済んだなら行くぞ。」

人垣と距離という隔てを越えて、
遠い彼方から送られて来た誰かさんからの意味深な睥睨へ。
ぽぽうっと頬を染めたのを切りに、
さぁさ、どうどうどうと手綱を取ったのが、
デビルバッツが誇るワイドレシーバーさんならば、

 「…進。今のは当然、今日も可愛いなって眼差しだよね?」
 「? いや、今日の試合も勝ち残れよ、だが?」

ライバルチームの主力へ向けて、熱い眼差し送っていたのを、
しっかと読まれてたというか見られていたことへは、
照れるとか何とかいう感慨はないのねと。
タイムラグのあったお返事へ、
かっちりとした肩を落としたのは、王城のワイドレシーバーさんだったりし。
どちらさんも似たような ややこしいキャプテンの言動へ、
思わずだろう、苦笑混じりの吐息をつけば。
梅雨入り間近い六月の空には、
つーいついとなめらかな翔けようで、ツバメが遊んでおりましたとさ。





  〜どさくさ・どっとはらい〜 09.06.04.


  *恋人さんは好敵手でもあるもんだから、
   想いの成分は“好き”ってだけじゃあなかったりするらしいです。
   でも、一部へはもはやバレバレだったりするので、
   隠し通す苦労は少ないのが、
   ある意味で恵まれておりますが。(…そうかな?・笑)

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv*

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